結論:家屋の損害は「地震保険」と「罹災証明書」で二重に判定される仕組みを理解する
地震で自宅が被害を受けた場合、「損害の程度」は保険会社が査定する地震保険の損害区分(全損・大半損・小半損・一部損)と、市区町村が発行する罹災証明書の住家被害区分(全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・一部損壊)の2種類で、それぞれ別の基準・別の調査で判定されます。前者は民間の地震保険金の支払割合を決め、後者は被災者生活再建支援金など公的支援の受給資格を決めます。両方の調査に立ち会い、写真と記録を残しておくことが、支援金を取り損ねないための最大のポイントです。
1. 地震保険の損害区分(全損・大半損・小半損・一部損)
地震保険は、火災保険とは別枠で加入する専用の保険です。損害調査では、建物の主要構造部(軸組・基礎・屋根・外壁など)の損害状況や、焼失・流失した部分の床面積、または建物時価に対する損害額の割合を基準に、以下の4区分で判定されます。
| 損害区分 | 主要構造部の損害割合の目安 | 保険金の支払割合(保険金額に対して) |
|---|---|---|
| 全損 | 50%以上 | 100%(時価が上限) |
| 大半損 | 40%以上50%未満 | 60%(時価の60%が上限) |
| 小半損 | 20%以上40%未満 | 30%(時価の30%が上限) |
| 一部損 | 3%以上20%未満 | 5%(時価の5%が上限) |
この区分に満たない軽微な損害(3%未満)は、地震保険の支払対象外となります。査定は保険会社が委託した鑑定人が行い、多くの場合、外観調査(屋根・外壁・基礎のひび割れや傾き)を中心に短時間で完了しますが、内部の損傷が大きい場合は室内調査に移行します。
2. 罹災証明書における住家被害区分(公的支援の基準)
一方、市区町村が発行する罹災証明書は、内閣府の「災害に係る住家の被害認定基準」に基づき、住家の損害割合を6区分で判定します。この区分が、被災者生活再建支援金など公的支援の支給額を決める根拠となります。
| 被害区分 | 損害割合の基準 |
|---|---|
| 全壊 | 50%以上 |
| 大規模半壊 | 40%以上50%未満 |
| 中規模半壊 | 30%以上40%未満 |
| 半壊 | 20%以上30%未満 |
| 準半壊 | 10%以上20%未満 |
| 準半壊に至らない(一部損壊) | 10%未満 |
地震保険の区分と罹災証明書の区分は、算定の考え方が似ているものの調査主体・調査方法・判定基準が異なるため、結果が一致しないケースが多々あります。「地震保険は大半損だったが罹災証明書は全壊だった」ということも普通に起こりますので、両方を別々に申請・確認する必要があります。
3. 調査のポイント:立ち会いと証拠保全が結果を左右する
3-1. 一次調査と二次調査
罹災証明書の被害調査は、まず外観目視による「一次調査」で判定されます。結果に納得できない場合は、内部立ち入りを含む「二次調査」を申請できます。一次調査だけで低く判定され、そのまま確定してしまうケースが非常に多いため、傾き・基礎の損傷・柱の破断など外観からは見えにくい損害がある場合は、必ず二次調査を申請してください。
3-2. 調査前にやるべき記録作業
- 倒壊・崩落の危険がない範囲で、被災直後の状態を写真・動画で四方向から撮影する
- 屋内の破損(家具の転倒、床の傾き、壁のひび割れ)も部屋ごとに撮影する
- ひび割れの幅や傾きの角度がわかるよう、メジャーや水平器を一緒に写す
- 応急的な修理・清掃を行う前に撮影を済ませる(修理後は証拠が消える)
- 調査員の氏名・所属・調査日時をメモしておく
3-3. 地震保険調査の立ち会い時の注意
保険会社の鑑定人による調査には可能な限り立ち会い、判定区分とその根拠(損害割合の算定根拠)をその場で確認しましょう。結果に疑義がある場合は、契約している保険会社の担当窓口、または「そんぽADRセンター」(一般社団法人日本損害保険協会)への相談が可能です。
4. 損害区分と支援金の関係:被災者生活再建支援金の支給額
罹災証明書の被害区分は、被災者生活再建支援法に基づく「被災者生活再建支援金」の支給額に直結します。この制度は「基礎支援金」(住宅の被害程度に応じて支給)と「加算支援金」(住宅の再建方法に応じて支給)の2階建てで構成されています。
4-1. 支給額一覧(令和2年改正後)
| 被害区分 | 世帯区分 | 基礎支援金 | 加算支援金 (建設・購入) |
加算支援金 (補修) |
加算支援金 (賃借) |
|---|---|---|---|---|---|
| 全壊 | 複数世帯 | 100万円 | 200万円 | 100万円 | 50万円 |
| 単身世帯 | 75万円 | 150万円 | 75万円 | 37.5万円 | |
| 解体・長期避難 | 複数世帯 | 100万円 | 200万円 | 100万円 | 50万円 |
| 単身世帯 | 75万円 | 150万円 | 75万円 | 37.5万円 | |
| 大規模半壊 | 複数世帯 | 50万円 | 200万円 | 100万円 | 50万円 |
| 単身世帯 | 37.5万円 | 150万円 | 75万円 | 37.5万円 | |
| 中規模半壊 | 複数世帯 | 支給なし | 100万円 | 50万円 | 25万円 |
| 単身世帯 | 支給なし | 75万円 | 37.5万円 | 18.75万円 |
4-2. 合計金額の目安(建設・購入の場合)
| 被害区分 | 複数世帯の合計 | 単身世帯の合計 |
|---|---|---|
| 全壊・解体・長期避難 | 300万円 | 225万円 |
| 大規模半壊 | 250万円 | 187.5万円 |
| 中規模半壊 | 100万円 | 75万円 |
4-3. 申請期限に要注意
被災者生活再建支援金には申請期限が定められており、期限を過ぎると原則として受給できなくなります。罹災証明書の取得や再建方法の検討に時間がかかっているうちに期限が迫っているケースも多いため、早めにスケジュールを確認しておきましょう。
- 基礎支援金:災害発生日から原則13か月以内
- 加算支援金:災害発生日から原則37か月以内
やむを得ない事情がある場合は市区町村の判断で期限が延長されることもありますが、あくまで例外的な扱いです。申請窓口(市区町村または都道府県)に、期限と必要書類を早めに確認しておくことをおすすめします。
5. 要注意:中規模半壊は「加算支援金のみ」で基礎支援金は出ない
令和2年の法改正で新設された「中規模半壊」(損害割合30%以上40%未満)は、半壊よりも重い被害でありながら基礎支援金の対象にはなりません。支給されるのは住宅の再建方法(建設・購入/補修/賃借)に応じた加算支援金のみで、金額も大規模半壊・全壊より低く設定されています。「半壊より重い判定なのに支援金が少ない」と誤解しやすい部分なので、次の2点を必ず確認してください。
- 中規模半壊と判定された場合、基礎支援金は0円、加算支援金のみが支給対象になる(建設・購入は複数世帯100万円・単身世帯75万円など、大規模半壊・全壊より低い金額になる)
- 加算支援金を受け取るには、実際にどの再建方法(建設・購入/補修/賃借)を選ぶかを決め、契約書等の証拠を添えて申請する必要がある
6. 判定に納得できない場合の対処法
- まず罹災証明書の再調査(二次調査)を市区町村の窓口に申請する
- 地震保険の査定結果に不服がある場合は、保険会社の担当窓口、または「そんぽADRセンター」に相談する
- 再調査の際は、事前に記録した写真・動画・メモを提示し、外観だけでなく内部・基礎の損傷も確認してもらう
- 建築士や住宅の専門家による私的な損害鑑定書を取得し、根拠資料として添付するのも有効
よくある質問(FAQ)
Q1. 地震保険の「大半損」と罹災証明書の「大規模半壊」は同じ判定になりますか?
A. 名称は似ていますが、調査主体・算定方法が異なるため一致しない場合があります。地震保険は保険会社の鑑定人が、罹災証明書は市区町村の調査員が、それぞれ独立して判定します。両方を必ず個別に確認・申請してください。
Q2. 一次調査の結果に納得できませんが、もう一度調査してもらえますか?
A. 可能です。罹災証明書の判定に不服がある場合は「再調査(二次調査)」を市区町村の窓口に申請できます。内部立ち入りを含む詳細な調査が行われるため、外観だけでは見えない基礎や柱の損傷を訴えることができます。
Q3. 中規模半壊で自宅を建て替える場合、支援金はいくらもらえますか?
A. 基礎支援金は支給されませんが、建設・購入の加算支援金として複数世帯100万円、単身世帯75万円が支給されます(大規模半壊・全壊より加算支援金の金額自体も低く設定されているため、合計額はさらに少なくなります)。
Q4. 地震保険に入っていなくても、被災者生活再建支援金は受け取れますか?
A. 受け取れます。被災者生活再建支援金は地震保険の加入状況とは無関係に、罹災証明書の被害区分に応じて支給される公的制度です。地震保険とは別に必ず申請してください。
Q5. 修理を先に始めてしまいましたが、支援金は申請できますか?
A. 申請自体は可能ですが、被害状況を証明する写真等がないと判定が不利になる可能性があります。修理・解体前に撮影した写真がなければ、業者の見積書や工事前の記録写真など、代替できる証拠を集めて提出しましょう。
Q6. 被災者生活再建支援金の申請には期限がありますか?
A. あります。基礎支援金は災害発生日から原則13か月以内、加算支援金は原則37か月以内に申請する必要があります。期限を過ぎると原則として受給できなくなるため、罹災証明書の取得や再建方法の検討と並行して、早めに申請スケジュールを確認してください。
被災後に並行して進めるべき実務チェックリスト
- □ 修理・解体・清掃の前に、外観四方向+室内各部屋の写真・動画を撮影した
- □ 罹災証明書の交付を市区町村に申請した(一次調査の立ち会い日時を確認)
- □ 一次調査の結果に不服がある場合、二次調査(再調査)を申請した
- □ 地震保険に加入している場合、保険会社に連絡し鑑定人による調査日を確定した
- □ 地震保険の査定結果(全損・大半損・小半損・一部損)を書面で受け取った
- □ 罹災証明書の被害区分(全壊〜一部損壊)を確認し、被災者生活再建支援金の対象か確認した
- □ 中規模半壊の場合、基礎支援金がないことと加算支援金の金額を理解し、再建方法を決めた
- □ 被災者生活再建支援金の申請窓口・必要書類(罹災証明書、預金口座等)を確認した
- □ 基礎支援金(13か月以内)・加算支援金(37か月以内)の申請期限を確認し、スケジュールに組み込んだ
- □ 応急修理制度や災害救助法に基づく応急修理の利用可否を確認した
- □ 固定資産税の減免や税金の申告期限の延長など、あわせて使える公的支援を確認した










